基礎篇(1):軽拘束モデルを「スケッチ」通りにつくりたい(準備作業)

 「基礎篇」と言って別に易しいと言う意味ではありません。「透視図法」の原則が分かり易いと言う意味に捉えて頂きたいと思います。即ち、自動車デザインのような工業製品は寸法や角度や位置など基礎的成立条件として拘束される数値が幾つもあります。その上で、或いはそれらとのトレードオフの折り合いの上で最終的にはデザインを成立させる必要があります。

 しかし、先ずデザイナーやスタイリストの意思・意図あってのデザインでしょうからスケッチにそれが感じられなければならないでしょう…。だからこそスケッチを立体化する意味があるハズです。 しかし、スケッチに表現された立体には整合性に欠ける場合(既述の拘束や時には不可能物体の時も~)もあり得るでしょう。そうした不整合を修正する方法については又別途スペースを割きますが、ここでは出来るだけスケッチ通りに立体化する方法について紹介して行きたいと思います。同時に透視図法の理論(遠いものは小さく見え、それは距離に反比例する…と言った程度で結構です)を思い出しながら読み進んでください。

(1)シンプルなスケッチ

図1)五角形のシェイプ
図1)五角形のシェイプ

 図1)ここに、シンプルな五角形をした一枚のスケッチがあります。形の特長は前が尖り、後は平坦な方形。肩の線は前方はタンク(戦車)のキャタピラーのように上下へ落ちるモーションで、後ろはボートのように平面廻しのモーションをしています。また、このモデルは対称形で中央(対称面)に断面線と、全高・全幅の断面線も描かれています。何れにせよ半透過スケッチでラッキーです。

(2)図面の作成

図2)三面図
図2)三面図

 クレイ(粘土)やCADでモデルを作成するには先ず三面図を起こします。図面を引くに当ってはスケッチの意図(肩線のモーションや折れ角の度合いなど)や立体の比率(全幅/全長、全高/全長、全高・全幅の位置/全長など)を見極め、確認しながら作成します。

(3)CADモデリング

図3)CADモデリング
図3)CADモデリング

 図面をCAD(事例はRhinoceros)でモデリングしました。それを半透過にしてスケッチの上に重ねて中心軸や全幅軸を合せて両者の違い(差)を確認しようとしますが、ズーム・回転機能はありますが「視距離調整機能」が無いため正確な比較は出来ませんが、全長を合わせると、高さと幅が過大で天井の前後左右の断面線も丸過ぎたようです。スケッチの意図を十分に反映できていません。

(4)3DGeneratorの場合(準備作業:基準平面定義=視点の割出し)

図4)3DGでのボックス会わせ
図4)3DGでのボックス会わせ

 スケッチや写真のような2D画像を立体化するにはスケッチを描いた視点(撮影位置)が必要になります。その視点は「透視図法」で言う消失点をスケッチから求めれば良いのですが、対象物が本事例のように曲線・曲面の場合は難しくなります。そこで3DGenerator(以後3DGと呼びます)では仮想boxを想定し、そのboxでスケッチを包絡させる手法を開発しました。

 図4)の事例では先ず前・後端の2点を押さえ、その2点をboxの前後軸と一致させています。更にその2点から左右方向の水平軸をスケッチと一致させています。後端点の軸線は接線で決まりますが、前端点の軸線は両肩の折れ点を結ぶ軸線方向から読み込んでいます。以上で2点と3軸を決めましたが、それはスケッチを包絡する立方体(box)が決まった(即ち、消失点が決まり、視点が決まった)ことを意味しています。図4)はbox一致後のものですが、全高・全幅点は何れももっと後方だった(描画者の矛盾)ということです。では、そのboxを一致させる様子を図5)の動画で確認して下さい。

図5) 基準平面定義

 スケッチには5本のピンクの軸線と緑の点5点が見えます。3個の緑点からはピンクの軸線が引かれています。更に青box(仮想box)が浮いていますが、青boxにもスケッチに対応する点や軸線が与えてあります。このスケッチの事例では寸法指示はありませんので青boxには適当な点の座標値や距離が入れてあります。軸線はboxの稜線に対応します。以上が、スケッチの視点を決めるための主な要素です(他にもありますが人間はそれを意識する必要はありません)。n点n軸の対応する要素を指示すると、暫くフリーズしたような時間が過ぎて急に青boxが立ち上がります。実はこれもひとつの解なのです。

 この状態で動画をstopさせて暫く観察してみましょう。青boxの他にもうひとつ緑boxが増えています。青boxは図面boxと言い、緑boxはスケッチ(絵)boxと呼びます。また良く見ると(フル画面表示にすると分りますが…)前端点(p1)と全幅点(p2)が青boxと一致していますし、p1点を通る左右水平軸も一致していることが分ります。しかし、このboxとスケッチのアングル(カメラアングルと同じ意味)は明らかに異なっています(スケッチは上から見ているのに青boxは下から見上げている)。そこで、次にその調整を行ないます。
 調整①:p1の点と左右軸はそのままにして、点p2の替りに点p3(後端点)を合わせます。(これでスケッチは青boxの全長距離を反映します)。更に、p3点からの左右軸を接線方向に設定するとアングル方向もスケッチと一致します。その結果、青boxの高さは高過ぎるし、幅は狭すぎることが分かります。
 調整②:次に狭い幅の調整を行います。絵boxは可動するのでスケッチの底面線に接するまでboxの幅を広げます。続いて高さ調整をします。幅と同様にセンター断面線に接するまで絵boxを引上げます。以上でスケッチのW*H*Dの3寸法は確定します。図面boxは必要ありませんので消去します。

 

(補:視点の割出し実験)

 このスケッチとboxを一致させて視点を求める方法を簡単に実験する方法を紹介しておきます。2枚のアクリル板(1枚は透明板)を用意して下さい。その板にマジックインクやラベルで3点を適当に配置してください。2枚の点の配列は大きく異なる配列にし、点にはa,b,cや1,2,3などの印を付けて下さい。そして1枚(不透明)を壁に貼るか床に置いて下さい。透明の板は手に持ってaとa、bとb、cとcなどの対応点が一致するように様々に動かして調整してみて下さい。その時、自分の目は目標の板(固定板)の中心を見るようにして動かさないで下さい。必ず2種類の一致箇所が存在します。固定板が「スケッチ」を、透明板が「box」を意味しています。これと同じ事を点や軸(水平・垂直・平行)などを使ってboxとスケッチを一致させる組合せをコンピュータに計算させ、対象物を包絡するboxを設定している訳です(点と軸を一致させる実験は透明の箱があればシミュレーション可能です)。

 

 以後のモデリング方法は「基礎篇(2)」をご覧下さい。

 

 尚、下の図6)の動画は尖った方を前として、前から見て「右側」は人間が書いた図面を元に作ったモデル。「左側」は3DG(コンピュータ)がスケッチから復元したモデルです。

 

図6)「人間のカンとコンピュータ」の造形センス比較

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