スケッチの「立体化事例」をこれまで紹介してきましたが、ご覧になってそれらのスケッチがかなり正確に描かれているのを「未だ存在もしないクルマをなぜ正確に描くことが出来たのか?」と不思議に思われた方がおられるのではないかと思います。
「自動車のつくり方:step00)準備作業」で 「(スケッチにスペックboxを一致させると言う)複雑・高度な条件下で正確なスケッチを描くという問題は別法で解決しますが、改めて“「イメージ」から「リアル」へ”の章で説明いたします。」と述べたように、この章でその「別法」を紹介して参ります。
トップページに掲載したクルマの“オリジナルスケッチ”は図2)の寸法とパッケージ図を前提として、図1)のイメージスケッチで表現されました。
ボディは結構大型の“セダンタイプ”でパッケージ図の太線は設計条件などを模して“拘束条件”としています。さて、スケッチがこの拘束条件をクリアしているかどうかはスペックboxを当て嵌めてみれば分かります(同時にスケッチ描画者の“視点”も決まります)。
図3)はスケッチの視点を求めるための準備作業として「基準平面定義」を行った結果です。前後ボディの各先端点と全高点を拘束した「ボディ合せ」で基準平面定義をしています。
FQ(フロントクォータ)スケッチの前輪位置が随分後方に描かれてWB(ホイールベース)が短く、フロントOH(フロントオーバーハング)が長くなっており、リ・デザインが必要と思われます。後輪位置は略正確ですがホイールフレアの広角レンズ的デフォルメ効果はチェックが必要でしょう。ドア断面(全幅)は正確です。
RQ(リアクオータ)スケッチの前・後輪位置は略正確で、リアOH部の立体構成は問題なく成立すると思われます(しかし、FQスケッチのリア部位との整合性確認要)。前輪位置が少し前方にあってWBが長くなったり、ドア断面が全幅を超えていますが大きな問題ではないと思われます。
図4)は図3)と同じ準備作業ですが、全高点とタイヤ位置を拘束した「タイヤ合せ」で基準平面定義をしています。拘束したタイヤはFQスケッチでは前輪、RQスケッチでは後輪です。
FQ、RQスケッチのタイヤ位置は前後輪共に良く一致しています。しかし、FQスケッチを良くご覧下さい。赤線で表示したセンター断面線(パッケージ図の断面線を参考表示)の位置でり・デザインすることになりますが、かなり困難のように思われます。即ち、図3)は「ボディ合せ」でWBが短くなったように、図4)では「タイヤ合せ」でボディが(相対的に)小さくなったため、ボディ全体を小さくしなければならない訳です。
RQスケッチは元々タイヤ位置は正確だったのでボディ後端点も略一致します。
以上のことからこの事例は「ボディ合せ」の方を選択しました。このように拘束点を何処に設定するかは重要なポイントですのでクルマを作る場合、この2ケースは必ず比較検討しておくと良いでしょう。
準備作業は図3)の「ボディ合せ」を適用しました。線の立体化手法は「基礎篇」を参照して下さい。FQスケッチの3D線は緑で、RQスケッチは青で表示しています。それらの3D線を同じスケッチに重ねています。FQスケッチではRQスケッチの青線が後方へはみ出しています。これは前述した広角レンズ的デフォルメとの“差”です。リアOHを短く見せたい(背面を絞りたい)意志表示は別途調整法を考えます。RQスケッチはホイールベースが少し長い程度なので修正は特に難しくはなく、フロント部位を少し調整すれば済むことが分かります。
仮にFQスケッチをスケッチ通りに立体化すると、どのような立体になるのかチェックしてみましょう。
結果は図6)の図面のような立体になります。セダンとしては成立しそうに無いので、これは自覚的なデフォルメと思われます。それで、図5)を基本とする「基準平面定義(=視点)」を適用します。リアOH部は後程スケッチの意図を反映して絞りを大きく取ることにします。
「ボディ合せ」で立体化した線を前後合体して三面図(CL断面線は赤)にした状態です。側面図はパッケージ図の上に表示されています。全幅(W)方向、ホイールベースなどがbox(=スペック)から外れていますし、パッケージに対してカウル位置は高く、前方に過ぎます。
そこで、これらハードポイントの参考線(黄色)として、パッケージ図の「CL断面線」や「ホイールオープニング」、「フロント・センターピラー、ベルトライン」などを3D線として追加したものが図8)です。
上掲の「フォトギャラリー」ではFQスケッチのリヤタイヤ付近での“広角レンズデフォルメ”を「リアオーバーハングを短く見せたい意図の表れ」と理解していたので、その修正を試みます。先ず、RQスケッチの基本デザインは変えない前提なので、左側リアランプ外縁の“く”字型のラインは固定するとします。その折点(2)とその点の水平線のCL断面との交点(1)を反対(右)側の「視点」から視線で結び、その線上で(2)点を車体中心方向へ押し込みます(左側は変わりません)。「フォトギャラリーの1番目のフォト」はその様子を表示しています。従って(2)の右側点は元の出代から随分中心側に寄っています。「2番目のフォト」はそれを前から見たところです。飛び出していたOHは少なく(短く)なっています。但し、ボディ構造上(リアフロア)、無闇に押し込むことも出来ませんのでホドホドという事でしょうが…。
デザイン修正は既述のように行ない、愈々再描画します。上の「フォトギャラリー」の細線は「基準平面定義」で立体化したオリジナルスケッチの線をそのまま残しています。赤い太線はパッケージ図の設計上押えるべき線やデザイン上押えるべき修正線を示しています。
このギャラリーはキャプチャー画像ですが、実際は3次元データですのでデザイナーは自分の描きたいビューを選択することが出来ます。そこでF/Q、R/Qのアングルを選択し、それをテンプレートにして再描画を行ないました。